農業共済新聞記事バックナンバー

「キクラゲを特産に」

【石巻市】「キクラゲを新たな町の特産品にしたい」と話すのは石巻市で水産業を営む阿部幸恵(ゆきえ)さん(58)。夫・祐二さん(60)が代表を務める「阿部水産」では、東北の漁業者では珍しいキクラゲ栽培を事業化。黒と白の2種類を生と乾燥で販売(登録商標「金華きくらげ」)し、人気を得ている。

 阿部さん方は生食用カキとワカメの養殖を手がける。収穫・販売を終えた夏場は、父・大志さんがアナゴ漁をしていたが、2018年に休業。夏の休漁期に年齢問わずできる仕事を探す中、震災復興ボランティアから聞いた「キクラゲなら女性一人でもできるよ」という言葉を思い出し、塩蔵ワカメの作業場を使ってキクラゲ栽培を始めた。
 養殖に区切りがつくと、祐二さんと息子の優斗さんがキクラゲの菌床を設置する棚と散水装置を仕立てる。「アラゲキクラゲ」の菌床を菌床メーカーに発注し、届いたらカッターで芽が出るよう切り込みを入れ、散水と加湿、そして送風。外気も入れ室内の空気を動かし、二酸化炭素障害にならないよう注意しながら、菌床栽培に適した高温多湿な環境に整備する。栽培を始めてみると、体力的な負担が少ないことを実感できたという。「雑談目的で手伝いに来られるような仕事場がつくれたら、地域がもっと明るくなる」と祐二さんは話す。
 現在は、年間で約2千㌔収穫していて、そのうち生キクラゲは「いしのまき元気いちば」「鮎川浜外房捕鯨くじら家(ホエールタウン内)」「鮎川浜おんま~と」「フジマル佐藤商店(小渕浜)」「グリーンサムいちば(恵み野)」「あいのや石巻のぞみ野店」で取り扱う。
 「お客さまの中には“キクラゲって海のものだっけ”と首をかしげる方もいます」と幸恵さん。国内流通の約9割が輸入品の乾燥キクラゲのため、生を知る人は少ない。阿部さん方は、例年6月下旬に開催するいしのまき元気いちばの周年祭に合わせ、初摘みの試食販売会を行い、「希少な生キクラゲが黒と白の両方味わえる」とリピーターなどでにぎわう。栄養価の高さも魅力の一つだ。
 祐二さんは「新たな町の特産品になって、絶景広がる牡鹿半島を訪問する人が増えるきっかけになれば」と話し、未来の牡鹿を展望する。(佐藤明夫)

ページ上部へ